よろめき食い道楽記

日々見つけたオイシいもんのことを語ります

伊予船 [元田中]

瀬戸内を感じるお寿司屋さんは堂々のBYO

【2011年9月】
以前にグループで伺った事がありますが、こちらの価値を感じつつ十分に楽しめなかったので再訪問を目指しておりました。1年以上経って、普段はあまり食べに行かないけどお寿司などどうだろうか、ということで伺いました。叡電元田中駅の南側、線路沿いの道を西に行くとすぐにポツンとありまして、まるで喫茶店か何か、そういう様子です。L字型の寿司カウンターが8席ぐらい、それに店舗の形に合わせた相席デフォの変形大テーブル1つに8人ぐらいで満席です。しかしコチラ、実はなかなかにユニークなお店で、界隈ではそこそこ有名なお店の様です。こういうのがこの街外れにあって永らく営まれているところが、京都の面白いところだと思います。

一つ目の特徴は、店名が示すとおり瀬戸内の魚介類が豊富に用意されていることです。しかも良く知られた高級魚だけでなく、磯釣りなどで美味は知られているが量や値段で流通に乗らないものが色々とあります。細身でキョロっとした目が印象的なご主人は、常連さんには適当な愛想で、そうでないお客さんには淡々とながらキチッと親切に応対してくれます。結構なお年かも、と思うのですが、出された料理を美味しく食べてもらうのが嬉しそうです。

もう一つの特徴は、何とBYO=Bring your own。これはレストランのアルコール販売のライセンスが厳しいところ(米国のどこかの州か豪州だったか)で、「用意してないから飲みたければ自分で持っといで」とお客に持ち込みさせるやり方です。ご近所では、昼間だけ営業の白水がそうです。しかしこちらは瓶ビールやお酒も用意されているのですから、「酒類持ち込み自由」というのが実際の姿。客はお酒の値段を気にせず、ご主人はお酒のサービスに時間を使わず、お料理に集中できる場所になっています。もちろん、エチケットとして、必要以上に大量に持ち込みせず、自分で確実に飲みきる分にしたいと思います。

今回はお酒をそれほど飲まないかみさんが同行ですから、ビールちょっとでおつまみをいただいてから、しっかりとお寿司を食べることにしました。提案は受け入れられて、オーダーは任されました。テーブルや壁にメニューがあり、お値段の表示がされているもの、出ていないものが混じっておりました。瀬戸内の地物中心に選びました。

○酢の物盛り合せ(恐らく1800円)
お造りの盛り合わせ、もありましたが、珍しいのでこちらを。予想を超えた豪華さに驚きました。お皿に上品な三杯酢と一緒に盛られていたのを列記します。それぞれ結構たっぷりありました。
*うちわえび(茹)*たこぶつ(半生)*ひいか(茹)*あん肝(茹)*巻貝(磯で良く見かける黒くて小さいもの。恐らくがんがら、こしだか、等と呼ばれているもの)*いわし*わかめ
酢橘を絞って香りと酸味を加え、それでも優しい酸味をサッパリと楽しみました。うちわえび、というのは初めていただきましたが、異星人と思われる姿に甘い味に驚きです。蟹に近いかもしれません。あん肝も臭みは一切無く、トロリとした食感と甘い味を楽しみました。
○穴子の骨揚げ
結構太い背骨がカリカリに揚がっており、ビールのおつまみに最高です。塩とポン酢が用意されていたので、好みで付けていただきました。
○ベラの塩焼き
きゅうせん、とも呼ばれる、白身の美味しい魚です。色で小さい雌を赤ベラ、雄を青ベラと呼んで、明石あたりでは見ます。表面に付いた粘液と大きな鱗がネックなのか、京都では見かける事はありませんでした。不思議がるかみさんに、美味しい魚だからと奨めると納得顔。酢橘をかけて上品な味を楽しんだ様ですが、元々これは小さい魚なのでこれで辛抱していただきましょう。
○ビール
二人で中一本で十分満足しましたので、ここでお寿司をお願いしました。
○瀬戸内にぎり(2500円)
お店の盛り合わせでは一番高額なもので、八貫あります。他に江戸前にぎり(2000円)などもありますが、こちらはやはり瀬戸内の地物が並ぶこちらをお奨めします。お寿司自体は、シャリの具合など、正直言いましてお見事、とは言えません。むしろ箱寿司などに向いているタイプかと思います。それでもタネの満足度から、お値打ち感満点でした。ちなみに伺った時の内容は以下の通りです。
*焼穴子*さわら(腹身)*さば*たいら貝*雲丹(軍艦)*かんぱち*赤貝*いさき
さわら、さばの濃厚な味が特に良かったです。焼き穴子もたれ味は抑えめで穴子の風味が全面に。赤貝も高級なネタになりましたが、ちゃんと用意されていました。
○おみをつけ
お寿司屋さんに定番の吸い物、赤出しの他に、この名前で用意されている一品。しかも「片田舎風」という解説付き。田舎でなく片田舎、何だろうね、とか言いつつ好奇心でオーダーしました。
げっ、というぐらい、大量の具です。大シジミ、ひいか、あんきも、(恐らく)たいら貝、麩、少しだけ人参が入っていますが、盛り上がっています。青ネギの刻みが乗っていて、贅沢なお椀だなと感心していました。田舎味噌は抑えめですが、魚介からのだしは濃厚で旨い。みそ汁というより別の料理との意見には納得しました。油分やハーブ・スパイスが無いブイヤベース、塩分が強くない潮汁、が実感に近いです。

「どこかに旅行に来たみたい」と、珍しくも美味しい料理を喜びながら食するかみさん。喫茶店の様な内装、バラエティー番組が流れるテレビなのに、そこまで感じさせるのは、こちらのご主人が用意したお皿の賜物でしょう。窓越に走る叡電も「ココは左京区」と言っていますが、舌から豊かな豫州の海を思い堪能する贅沢は許されるでしょう。カメノテ、潮汁、お土産に箱寿司とか?興味は尽きません。お酒で儲けるやり方をとらず料理にちゃんと値段を付けられるお店、支持したいと思います。魚好きの方にはお奨めしたい佳店、600のキリ番でレビューをさせていただきました。

【店舗データ】
伊予船 (いよせん)
075-712-0606
17:00~24:00
定休日 月曜日
京都市左京区田中里ノ内町13

レビュー(食べログ)